いつよりも長く頭を下げ初詣 八木澤高原【季語=初詣(新年)】


いつよりも長く頭を下げ初詣

八木澤高原

八木澤高原(1907~1994年)は、「駒草」二代主宰。四代目西山睦主宰の父に当たる。阿部みどり女(創刊主宰)、蓬田紀枝子(三代主宰)の句に比べて読みこんでいるとは言えない(第一句集『冬雁』は持っていない)が、高原俳句の印象は「不思議」である。その不思議さを分析すると「時空」の表現ということになるだろうか。私の俳句の叙法は、自覚する範囲では、駒草の阿部みどり女一力五郎蓬田紀枝子世古諏訪梶大輔の影響が強い。高原句は、実作への叙法の上での自覚的な影響は小さいが、上に挙げた作家と同じくらい覚えている句が多い。「愛誦」というのではない。ガツンと殴られたような衝撃を受けた記憶もない。なのに、何かのときに、ふっと口をついて出る。つくづく不思議な作家である。

鮭打といふは許されたる殴打  高原

風いつも季節の使者よ夏の果

山小屋に傘寿の寝坊許されて 

ひやひやと象牙の印や事務始

わたくしの時間となりて冷房に

生憎の雨と言ふまじ濃山吹

わが歩約百にして又威銃

これよりは立夏の風のごと生きむ

ほのぼの、という言葉がしっくりくる。そして、個性というか癖のある文体が、読者にとっても癖になってしまう。威銃の感覚を足で測るというのは笑ってしまう。「俳人に生憎の雨はない」とよく言うが、〈生憎の雨と言ふまじ濃山吹〉は相当昔の作。その頃から「俳人に生憎の雨はない」という決まり文句があったとしたら、相当図太い作句である。

私にとってのみどり女、紀枝子の句の魅力は、思い切りと正直さにある。みどり女は「写生に始まり写生に終わる」と言ったが、それは生き方、態度を表すようなもので、表現としてはかなり奔放。その思い切りが、スカッとしていて、明るい。じめじめしていない。ただ時折、「わからない人にはわからなくて結構でございますよ」という姿勢が見えて、それがまた格好良い。たとえば

枯芦の曇れば水の眠りけり/阿部みどり女

失つてしまへば兄に積もる雪/蓬田紀枝子 

高原俳句は、彼女たちの格好良さとは趣が異なる。もっと朴訥としている。〈冬雁は白きもの日に真向へば〉という初期の秀吟は格好いいが、作家の傾向としては、閃光のような直感のひらめきは弱い。みどり女句で言えば〈梅林へ梅林へ私は裏山へ〉の系統だ。忘れられない。「何が良いとはうまく言えないのが本当にいい句だ」と筆者は紀枝子に教わったが、高原句もそういうものなのだと、漠然と思っている。

*****

掲句は句集『天窓』収録。昭和60年の作。そのしばらく後に、光子夫人を悼む句があるので、妻の病という背景があっての句と思う。「いつよりも」には、祈りのような思いが、これまで毎年一緒に妻としてきた初詣という時間の広がりのなかでしみじみと広がる。

手元に、蓬田紀枝子旧蔵の『天窓』がある(同人の白鳥耕子氏よりいただいた)のだが、この句には印がついていない。なぜなのかと考えてみたが、一つには「いつよりも」が「駒草」内部では「高原調」と言われるようなものだったからではないかという気もする。ちなみに印もつけずに横線を引っ張ってある句が散見されるのだが、いずれも高原調。試みに一章から、紀枝子の(印は付いていないが)線が引いてある句を抜いてみる。

この園のための風情のための蕗の薹

雲を見る眼差しをもて古巣見る

醜草に萌えを許して芝自若

曲屋は庭も見るべし濃山吹

ためらはず座禅草にも手を合はす

海霧深き視野は燈台どまりにて

とかく印象的である。これが良いのかどうか、筆者にはよくわからない。しかし、印象的なのは確か。「ひねりすぎて元に戻ることがある」と睦主宰がちらりと語ったのを聞いたことがあるが、しかし、ある意味では、みどり女の「上手く作るな」の教えを突き詰めていった一つのあり方だとも思う。ちなみに、紀枝子が印をつけている句から一部抜粋すると、

雲流れ来てより桜色を濃く

火の色もよけれど音もよき蘆火

雪おろし見て旅人は立ち止る

野にありて春昼使ひ果しけり

雪の径譲る心を遠くより

旅今日も青嶺ばかりが視野にあり

といった具合。かなり省略したが、紀枝子門下としては納得のセレクションである。

ずいぶん前だが、紀枝子前主宰のお部屋に伺ったとき、高原俳句にも話題が及んだ。別に高原調云々と話を振った訳ではないのに、自然と「高原調は作家としての自信の表れであり、ひとつの個性。高原先生のレベルに達していないのに高原調を真似してもダメ。借りものの器を借りて来ても何の意味もない。その人のもっているもので勝負するべきだ。一時期駒草に高原調の俳句が増えたが、だから高原先生自身も、高原調の俳句はあまり採らなかった」と諭されるように話された。ふっと、〈箒草干されてまろさ衰へぬ〉という高原句を忘れがたい句として口ずさんだのが印象的だった。助動詞「ぬ」は高原俳句に多い印象が何となくあるが、叙法と言うよりはちょっと意外な物の見方が高原俳句という感じがする。

*****

高原の句は、高原時代から掲げられた「写生、そして心の投影」というスローガンに集約される。「心の投影」というフレーズそのものは、みどり女が高原との対談記事で述べたものだが、高原は横浜住まい、仙台のみどり女とは距離があったために独自の発展をなしたのだと思う。筆者は、高原調は高原流の写生に心の入れる方程式だったと理解している。そして、それは時空を表すことで心を籠めるという形式を取る。

今少し掲句に拘ると、掲句の「いつよりも」は高原句特有の時空の表現ではないかと思う。

みどり女の場合は、時空の切り取り方は瞬間的で、点の捉え方。

櫛つけて清水にさつと薄油 みどり女

といった具合。他方高原は、

花野行くその間もかなり登り来し 高原

と、空間的な奥行がある。しかもそれで時間の経過も表現している。さらには、時間・空間への態度として、作者の心が浮き上がる。

奥行といえば、私の句集の表題句

雪となる夜景の奥の雪の山

は無意識のうちに高原句から学んだ空間的・時間的な奥行の演出であったかもしれない。

そういえば、高原句には「山」の句が多い。

大いなる影山に置き山眠る  高原

稲妻に山の稜線暗んずる

山歩ききてわが御用始かな

私の句集には296句中20句も山の句があるのだが、知らず知らずのうちに高原俳句の世界に取り込まれているようだ。

加えて言うと、高原俳句の技法としては、リフレインが効果的に使われているということも特徴の一つ。高原句のリフレインは、単純化と共に一句に時間・空間を折り畳んでしまうような効果が主である。

滝の径ひとたび滝に遠ざかる 

枯野来て枯野に行くに渡舟かな

引用の一句目、滝へ行く径がまっすぐに滝に向かうのではなくて、迂回してひとたび滝の音が小さくなったという。時の経過、空間の奥行を示すリフレインだ。この把握は、リフレインの句以外でも〈遠く見し蟬の林の中に在り〉〈高きにて遠き薄と吹かれけり〉といった句に顕著。私の「夜景の奥」の句も、うっすら高原俳句が頭にあったればこその措辞のようにも思われ、このような「知らず知らずの影響」を後学者に与えるということでは、(拙句の成否はともあれ)高原調は大成功ということになるのかもしれない。

より直接的な高原チックな句として、筆者はこんな句も作っている。

約束はいつも待つ側春隣   芳直

捩花やバスが来ぬなら歩きだす

あり余る日向としての冬田かな

選も受けたことのない高原の影響をこんなにも受けていたのかと驚く。凝視を経てのことならば、思ったままを俳句にしてもいいのだ、ということを教えてくれたのが高原俳句であった。

そういえば、筆者には助動詞「たり」の連体形「たる」を用いた句も多い。そろそろ脱却をと思っている「癖」の一つ。

手袋に切符一人に戻りたる

雑煮椀どかと座したる遺影かな

といった具合。現主宰西山睦に学んだ、単純化のための十七音の引き延ばしだが、よく考えてみると高原句では、次のような叙法も特徴的だ。

雲流れきてより桜色を濃く

散りつくしたればもみぢも冬木たり

これも一句の引き延ばし方と言えよう。つくづく、「知らず知らずに高原俳句の影響は大きい」、である。

自分の作句のルーツを振り返るほど重みを増す俳人、それが高原である。

*****

高原句の時空表現。これはみどり女、紀枝子の瞬間を捉える直感と比べると、茫漠たるものだ。しかしながら、みどり女のある面を確かに受け継いだ表現でもある。みどり女は事あるごとに「高原さんにこんな句があって……」と仙台の弟子に高原句を紹介していたという。みどり女の求めたものを弟子筋ではもっとも体現していた作家の一人として、もっと読まれるべき俳人と言える。

今の「駒草」の編集に一点だけわがままを言うことが許されるならば、みどり女のアーカイブ記事はときどきあるのに、高原回顧が少ないのは不満である。高原主宰時代を知る人はもう少ない。語り部たる人が元気なうちに、生々しい高原論を活字にしてほしい。かつてのみどり女論がそうだったように。

浅川芳直


【執筆者プロフィール】
浅川芳直(あさかわ・よしなお)
平成四年生まれ。平成十年「駒草」入門。現在「駒草」同人、「むじな」発行人。
令和五年十二月、第一句集『夜景の奥』(東京四季出版)上梓。

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この人の鋭さと柔らかさの兼ね合いは絶妙。清新と風格の共存と言い換えてもよい。──高橋睦郎

春ひとつ抜け落ちてゐるごとくなり
一瞬の面に短き夏終る
カフェオレの皺さつと混ぜ雪くるか
論文へ註ひとつ足す夏の暁
人白くほたるの森に溶けきれず

夜景の奥(購入方法) 東京四季出版

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2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2023年12月・2024年1月の火曜日☆土井探花のバックナンバー】
>>〔1〕忘年会みんなで逃がす青い鳥 塩見恵介
>>〔2〕古暦金本選手ありがたう 小川軽舟

【2023年11月・12月の水曜日☆北杜駿のバックナンバー】
>>〔9〕静臥ただ落葉降りつぐ音ばかり 成田千空
>>〔10〕綿虫や母あるかぎり死は難し 成田千空
>>〔11〕仰向けに冬川流れ無一文 成田千空
>>〔12〕主よ人は木の髄を切る寒い朝 成田千空
>>〔13〕白鳥の花の身又の日はありや 成田千空
>>〔14〕雀来て紅梅はまだこどもの木 成田千空

【2023年12月・2024年1月の木曜日☆浅川芳直のバックナンバー】
>>〔1〕霜柱五分その下の固き土 田尾紅葉子

【2023年10・11月の火曜日☆西生ゆかりのバックナンバー】
>>〔1〕猫と狆と狆が椎茸ふみあらす 島津亮
>>〔2〕赤福のたひらなへらもあたたかし 杉山久子
>>〔3〕五つずつ配れば四つ余る梨 箱森裕美
>>〔4〕湯の中にパスタのひらく花曇 森賀まり
>>〔5〕しやぼんだま死後は鏡の無き世界 佐々木啄実
>>〔6〕待春やうどんに絡む卵の黄 杉山久子
>>〔7〕もし呼んでよいなら桐の花を呼ぶ 高梨章
>>〔8〕或るときのたつた一つの干葡萄 阿部青鞋
>>〔9〕若き日の映画も見たりして二日 大牧広

【2023年10・11月の木曜日☆野名紅里のバックナンバー】
>>〔1〕黒岩さんと呼べば秋気のひとしきり 歌代美遥
>>〔2〕ロボットの手を拭いてやる秋灯下 杉山久子
>>〔3〕秋・紅茶・鳥はきよとんと幸福に 上田信治
>>〔4〕秋うらら他人が見てゐて樹が抱けぬ 小池康生
>>〔5〕縄跳をもつて大縄跳へ入る 小鳥遊五月
>>〔6〕裸木となりても鳥を匿へり 岡田由季
>>〔7〕水吸うて新聞あをし花八ツ手 森賀まり
>>〔8〕雪の速さで降りてゆくエレベーター 正木ゆう子
>>〔9〕死も佳さそう黒豆じっくり煮るも佳し 池田澄子

【2023年9・10月の水曜日☆伊藤幹哲のバックナンバー】
>>〔1〕暮るるほど湖みえてくる白露かな 根岸善雄
>>〔2〕雨だれを聴きて信濃の濁り酒 德田千鶴子
>>〔3〕雨聴いて一つ灯に寄る今宵かな 村上鬼城
>>〔4〕旅いつも雲に抜かれて大花野  岩田奎
>>〔5〕背広よりニットに移す赤い羽根 野中亮介
>>〔6〕秋草の揺れの移れる体かな 涼野海音
>>〔7〕横顔は子規に若くなしラフランス 広渡敬雄
>>〔8〕萩にふり芒にそそぐ雨とこそ 久保田万太郎

【2023年8・9月の火曜日☆吉田哲二のバックナンバー】
>>〔1〕中干しの稲に力を雲の峰   本宮哲郎
>>〔2〕裸子の尻の青あざまてまてまて 小島健
>>〔3〕起座し得て爽涼の風背を渡る 肥田埜勝美
>>〔4〕鵙の朝肋あはれにかき抱く  石田波郷
>>〔5〕たべ飽きてとんとん歩く鴉の子 高野素十
>>〔6〕葛咲くや嬬恋村の字いくつ  石田波郷
>>〔7〕秋風や眼中のもの皆俳句 高浜虚子
>>〔8〕なきがらや秋風かよふ鼻の穴 飯田蛇笏
>>〔9〕百方に借あるごとし秋の暮 石塚友二

【2023年8月の木曜日☆宮本佳世乃のバックナンバー】
>>〔1〕妹は滝の扉を恣       小山玄紀
>>〔2〕すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる 阿部完市
>>〔3〕葛の花来るなと言つたではないか 飯島晴子
>>〔4〕さういへばもう秋か風吹きにけり 今井杏太郎
>>〔5〕夏が淋しいジャングルジムを揺らす 五十嵐秀彦
>>〔6〕蟷螂にコップ被せて閉じ込むる 藤田哲史
>>〔7〕菊食うて夜といふなめらかな川 飯田晴
>>〔8〕片足はみづうみに立ち秋の人 藤本夕衣
>>〔9〕逢いたいと書いてはならぬ月と書く 池田澄子

【2023年7月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】

>>〔5〕「我が毒」ひとが薄めて名薬梅雨永し 中村草田男
>>〔6〕白夜の忠犬百骸挙げて石に近み 中村草田男
>>〔7〕折々己れにおどろく噴水時の中 中村草田男
>>〔8〕めぐりあひやその虹七色七代まで 中村草田男

【2023年7月の水曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔5〕数と俳句(一)
>>〔6〕数と俳句(二)
>>〔7〕数と俳句(三)
>>〔8〕数と俳句(四)

【2023年7月の木曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔10〕来たことも見たこともなき宇都宮 筑紫磐井
>>〔11〕「月光」旅館/開けても開けてもドアがある 高柳重信
>>〔12〕コンビニの枇杷って輪郭だけ 原ゆき
>>〔13〕南浦和のダリヤを仮のあはれとす 摂津幸彦

【2023年6月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】

>>〔1〕田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男
>>〔2〕妻のみ恋し紅き蟹などを歎かめや  中村草田男
>>〔3〕虹の後さづけられたる旅へ発つ   中村草田男
>>〔4〕鶏鳴の多さよ夏の旅一歩      中村草田男

【2023年6月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔6〕妹の手をとり水の香の方へ 小山玄紀
>>〔7〕金魚屋が路地を素通りしてゆきぬ 菖蒲あや
>>〔8〕白い部屋メロンのありてその匂ひ 上田信治
>>〔9〕夕凪を櫂ゆくバター塗るごとく 堀本裕樹

【2023年5月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔5〕皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人
>>〔6〕煮し蕗の透きとほりたり茎の虚  小澤實
>>〔7〕手の甲に子かまきりをり吹きて逃す 土屋幸代
>>〔8〕いつまでも死なぬ金魚と思ひしが 西村麒麟
>>〔9〕夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ  堀本裕樹

【2023年5月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔1〕遠き屋根に日のあたる春惜しみけり 久保田万太郎
>>〔2〕電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
>>〔3〕葉桜の頃の電車は突つ走る 波多野爽波
>>〔4〕薫風や今メンバー紹介のとこ 佐藤智子
>>〔5〕ハフハフと泳ぎだす蛭ぼく音痴 池禎章

【2023年4月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔1〕春風にこぼれて赤し歯磨粉  正岡子規
>>〔2〕菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵
>>〔3〕生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子
>>〔4〕遠足や眠る先生はじめて見る 斉藤志歩

【2023年4月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔6〕赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波
>>〔7〕眼前にある花の句とその花と 田中裕明
>>〔8〕対岸の比良や比叡や麦青む 対中いずみ
>>〔9〕美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目

【2023年3月の火曜日☆三倉十月のバックナンバー】

>>〔1〕窓眩し土を知らざるヒヤシンス 神野紗希
>>〔2〕家濡れて重たくなりぬ花辛夷  森賀まり
>>〔3〕菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子
>>〔4〕不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【←三倉十月さんの自選10句付】

【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔1〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
>>〔2〕砂浜の無数の笑窪鳥交る    鍵和田秞子
>>〔3〕大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波
>>〔4〕カードキー旅寝の春の灯をともす トオイダイスケ
>>〔5〕桜貝長き翼の海の星      波多野爽波

【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔6〕立春の零下二十度の吐息   三品吏紀
>>〔7〕背広来る来るジンギスカンを食べに来る 橋本喜夫
>>〔8〕北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子
>>〔9〕地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂未知子

【2023年2月の水曜日☆楠本奇蹄のバックナンバー】

>>〔1〕うらみつらみつらつら椿柵の向う 山岸由佳
>>〔2〕忘れゆくはやさで淡雪が乾く   佐々木紺
>>〔3〕雪虫のそつとくらがりそつと口笛 中嶋憲武
>>〔4〕さくら餅たちまち人に戻りけり  渋川京子

【2023年1月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔1〕年迎ふ父に胆石できたまま   島崎寛永
>>〔2〕初燈明背にあかつきの雪の音 髙橋千草
>>〔3〕蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず 青山酔鳴
>>〔4〕流氷が繋ぐ北方領土かな   大槻独舟
>>〔5〕湖をこつんとのこし山眠る 松王かをり

【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】

>>〔1〕さしあたり坐つてゐるか鵆見て 飯島晴子
>>〔2〕潜り際毬と見えたり鳰     中田剛
>>〔3〕笹鳴きに覚めて朝とも日暮れとも 中村苑子
>>〔4〕血を分けし者の寝息と梟と   遠藤由樹子

【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】

>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行
>>〔9〕去年今年詩累々とありにけり  竹下陶子

【2022年11・12月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃
>>〔8〕セーターを脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
>>〔9〕動かない方も温められている   芳賀博子

【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】

>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し  西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被    平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て   高橋安芸

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり  岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子

【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】

>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして    原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり  金原まさ子

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹   津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ    榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか  鴇田智哉

【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】

>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥    橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ  京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上     鈴木花蓑

【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】

>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな  飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸     飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり    飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い   飯島晴子

【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】

>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず  加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓   加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる  加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ  加倉井秋を

【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】

>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月  杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな   坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ   安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希

【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】

>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる    小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄      吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ     三枝桂子

【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】

>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲   安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲  宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく     加藤喜代子

【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】

>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸   正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ  正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉      正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな     正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規

【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】

>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる    野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等      野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし   野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海    野見山朱鳥

【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】

>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが  髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた    福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり   兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな     畠山弘

【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】

>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり      石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養    石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず  有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛      松本たかし

【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】

>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は   中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催      潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ      田口武

【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】

>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希

【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺    正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事   岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ   中町とおと

【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】

>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う    大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」   林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より      藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手    木下夕爾

【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】

>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し      芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ    芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉      芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音      芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【後編】

【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】

>>〔1〕秋灯机の上の幾山河        吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる  加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す    寺田京子

【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】

>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊     杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ  後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す   仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒     山口青邨

【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】

>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり   夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな   永田耕衣


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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